TSFジャンルについての私見

はじめに

私ことFは、TSF界隈のサイトを見始めたのが1998年頃、TSF系のSSを書き始めたのが2004年頃、商業作家さんにお願いして漫画同人誌を発行し始めて約2年という、TSF界隈の古参な方達からは新参扱いされるような立場です。
しかしながら、ネットにおけるTSFジャンルの草創期からジャンルを愛好していた者として、現在のTSFジャンルがどのようなものなのかということについて私見を述べさせて頂きます。間違い等があればtwitterにてご指摘いただければ適宜修正いたします。なお、以下の私見は昨日今日で変わったものではなく、18年間(あるいは、弓月光先生のどろんを読んでから28年間)の蓄積に基づくものです。
この記事についてですが、TSFジャンルに詳しくない人にも分かりやすい文章に校正したり、根拠となるURLの追加などを随時行っていこうと思っております。

TSFとは

TSFとは、「非現実的な事象によって精神が帰属する肉体の性別が変化することで、肉体的性別と精神的性別との差異が突如うまれる物語」の類型を表す言葉として使われています。
命名時においては、「男性から女性に転じる物語」の類型を表す言葉を意図して造られた言葉です。また、命名時において、「女体化」という言葉は、既に様々な意味を持つため使用を避けたという経緯があります。
TSFという言葉が造られる前に、「男性から女性に転じる物語」の類型を表す言葉として、「肉体の性別と精神の性別が異なる状態であること」を指すTSという言葉が用いられていましたが、現実のTSと物語上の性別変化とを区別するためにTSFという単語が造られました。
なお、TSFという言葉が造られたのと時を前後して、TSと言う言葉を「男性が女性に変じてしまうあらゆる種類のフィクション」を指す用語として広めた方も、TSという言葉を神話的性転換と呼ぼうとしましたが、言葉が長すぎたのが原因か普及はしなかったようです。
また、商業作品のTSもの(TSF)を収集しようとしていた当時の認識としては、男性から女性への変化を含む創作物がメインで、女性から男性への変化を含む創作物はおまけとして扱われていました。
TSFについては、人によって好むところが更に細分化され、肉体の性別が変化していく様や、肉体的性別と精神的性別との差異が継続されることや、肉体的性別と精神的性別との差異が解消されていくことや、変化の前後における(主として容姿の)落差など様々な点が重視されています。
「精神が帰属する肉体の性別が変化する」ための物語の道具立てとして、自己の肉体が変化する「女体化系」(性転換系)、男女の肉体が入れ替わる「入れ替わり系」、男が女に憑依する「憑依系」、着るだけで女の肉体になれる「皮」を使った「皮系」などがあります。どの手段で性別変化が起きるのか、ということを重要視する人も多いです。また、一部、「女体化系」以外のTSFは、本来のTSFではないとする意見もあります。
女性向け創作分野の女体化のうち、物語中で登場人物の身体が女体化する「後天的女体化」(後天性女体化とも)は、女性を主とするコミュニティにおいて生じたものではありますが、今では後天的女体化=女体化系TSFといった認識もなされています。男性向けコミュニティと女性向けコミュニティが融和した状態となっており、このまま発展して行ければ嬉しいと思っております。
私個人としては、旧来の後天的女体化と旧来の女体化系TSFが融和したような創作が好みの一つであり、そのような漫画について、漫画制作を依頼していたりします。 例1例2
旧来の男性向け創作と旧来の女性向け創作とが融和しているようなジャンルについて、男性向けだとか女性向けだとかに分けることは確かに悪影響が大きいです。

ところで、TSF=TransSexual Fictionの略語なのだから、「性転換に関するフィクション」以上の意味を持たせることはできない、という意見も目にしますが、これは正論であるとともに、暴論だと思います。
「寝取り」という単語は、「性的交渉によって、他者の恋人や配偶者を自分の恋人や配偶者にする行為」として認識されています。しかし、単語の構成上は「寝て取る」以上の意味を含有しないといってしまうと、「寝る」は「眠る」、「取る」は「手でつかむ」という意味が主要な意味である以上、「眠りながら手でつかむ」だとか「眠った人から物品を取る」だとかの意味になるはずですが、そうはなりません。
単語の有する意味は、これまで使用されてきた文脈や、意図的に造られた言葉であるのならば発案者による趣旨などが重要視されるものです。
文脈や、趣旨をある程度考慮した上で新たな意味が盛り込まれる事は、単語が末永く使われていくことを考えると、歓迎すべき事だと考えています。一方で、文脈や趣旨を完全に無視した使い方を、「単語の構成要素から判断して、間違った使い方ではない」と許容し続けると、文脈が途絶され、趣旨が没却され単語が死ぬと考えています。

TSFには女から男への変化も含むのか

現在の用法としては、女から男への変化も含むとされる場合が多いです。しかし、元々は、男から女への変化を表す場合が主でした。
創作物の世界にTS=TransSexualという言葉を持ち込んだ八重洲一成さんのサイトには、”ここは男の子が女の子に変身するSF・ファンタジー等のフィクション作品を専門的に取り扱ったサイトです。”と記載されています。また、収集していた作品群も男から女に変化するものを主体としていました。加えて、八重洲一成さんが創設した少年少女文庫というTSものの投稿サイトも、少年から少女への変身を扱うものです。また、上述したTSFという言葉が造られた経緯を説明する文章においても男から女への変化のみを対象としています。加えて、TS-WEEKという2000年〜2001年頃に運営されていたサイトにおいても、男から女への変化であることを前提として話がなされています
これらの事実から、TSなりTSFなりという言葉は、男から女への変化を主たる対象としていたことが読み取れます。

お願い

創作におけるTS/TSFという言葉は、今では男女の境があまりなく使われている言葉であると思います。
しかし、少なくとも2005年頃までは、TS/TSFという言葉は、男性主体のコミュニティーで使われていた言葉であると考えています。というのも、上述したサイト群の管理人は男性でありますし、コラムなどにおいても「男である自分が女になったら」という論調で記載されています。なお、管理人が男性であり、男性向けを指向した創作が公開されていた場合に、当然ながらそれを好む女性達が居たことを否定するものではありません。また、現在において、多数の女性創作者さんが、TSF創作を行っていることは好ましいことだと考えています。
2005年頃までは、女性向け創作サイトでは、類似する概念を表す言葉として「女体化」などを使っていたと記憶していますが、いかんせん、私自身があまり興味を持てなかったこと、女性はネット上でのリスクを考えて性別を明かさないか男性を装うこと、女性向け二次創作サイトは検索避けを行うこと等が重なって、2005年頃までに積極的にTSなりTSFという言葉を使っていた女性向けサイトを寡聞にして存じ上げません。
当時の女性向けサイトでは、女の子化した商業キャラクターに焦点をあてているものが多く、性別変化そのもの、あるいは、性別変化によって起きる物語に焦点をあてているサイトは少なかったように思います。
また、二次創作同人誌において使用されていた形跡があるのかもしれませんが、いかんせんニッチジャンルの上、web上の検索には載らないので、実際にどうだったのかが分からないというのが私にとっての現状です。
つきましては、特に1999年〜2003年頃にTS/TSFという言葉を使用していた女性向けコミュニティなどがあるという情報がありましたら、教えて頂けると助かります。

Twitterの発言についての謝罪、及び、発言の意図について

TSFジャンルについて、「男性向けに限定してもいいのでは」「男性から女性に変化するものだけに限定してもいいのでは」といった考えを公の場で発言したことにつきまして、大変申し訳ございませんでした。そもそもTSFジャンルの一愛好者に過ぎない自分が勝手に「用法を限定する」などと考えたこと自体が問題だったかと思います。また、周囲の方たちにもご迷惑をかける状況を招き大変申し訳ございません。

私が上述した発言を行ったのは、pixiv小説において、2015年6月ごろから、女性主人公が商業男性キャラクターに成り代わったり、乗っ取ったりする小説(以下、「女性向け成り代わりTS」)にTSタグが使用されるようになり、2016年7月の時点において、TSタグで検索を行うと、この女性向け成り代わりTSで寡占される状態になっていることと、
http://www.pixiv.net/novel/tags.php?tag=TS
2016年7月10日に、pixiv大百科の「乗っ取り」の記事内において、「異性への乗っ取りはTSFの一種」という記載が追加されていたことが主な理由です。
http://dic.pixiv.net/history/view/1778228

上述した状況から、何らかの原因、例えば、「身体と精神との性別が一致していない状態」を表す言葉の一つであるTSを創作物に用いるのが適していないとする、TSFという言葉が用いられ始めた理由などによって、「女性向け成り代わりTS」にTSFタグが使用され始めることを懸念しました。
そして、創作物の量の比率から、「女性向け成り代わりTSこそがTSFである」と、意味が大幅に変質してしまうことになりかねないと考えました。
そこで、既存のTSF創作の愛好者として、女性向け成り代わりTSにTSFタグが使用される状況を予め阻止しておきたいと思い、「男性向けに限定する」「男性から女性に変化するものに限定する」「pixiv大百科で女性向け成り代わりTSにTSFタグを使用しないようにお願いする」などといったことを考えました。
しかしながら、多数の女性作家さんにも協力して頂いている身であり、女性のTSF愛好家も数多くいるなかで、「男性向けに限定する」とするのは、適切な考えではありませんでした。また、「男性から女性に変化するものに限定する」というのも言葉の意味から考えてなかなか難しいところですし、女性から男性に変化する作品の愛好家に対する配慮が欠けていたかと思います。また、冒頭でも申し上げた通りそもそもTSFジャンルの一愛好者に過ぎない自分が勝手に「用法を限定する」などと考えたこと自体が問題だったかと思います。大変申し訳ございませんでした。
ご意見等ありましたら、twitterの方でお願いいたします。

以下、7/18 10:17追記

TSタグ-成り代わりタグ:928件
TSタグ-刀剣乱舞関係タグ:876件
TSタグ-(成り代わりタグ+刀剣乱舞関係タグ):838件
TSタグ単独:1210件

計算すると、
刀剣乱舞関係タグ*TSタグ=334件
成り代わりタグ*TSタグ=282件
TSタグ-(成り代わりタグ+刀剣乱舞関係タグ)=838件

ここ一月のTSタグについて同様の検索を実施
(プレミアムアカウントでのみ有効な機能だと思います)
TSタグ単独:50件
刀剣乱舞関係タグ*TSのタグ:15件
成り代わり*TSタグ:27件
TSタグ-(成り代わりタグ+刀剣乱舞関係タグ):19件
TSタグ*(成り代わりタグ+刀剣乱舞関係タグ):31件

FAKKU!での同人誌の国外配信について

弊サークルの最新作「僕はサキュバス?」について、DLsiteで販売を開始するとともに、米国のFAKKU!にて翻訳版の販売を開始しました。
https://twitter.com/FAKKU/status/743938022597484544
なお、FAKKU!のコンテンツは日本国内からはアクセスできない仕様になっています。理由は後述。

売り上げ収入は、販売後1週間で、
292部×4.95USD×卸値率70%×102JPY/USD=103,202円
とそこそこ好調です。(日本国内の海外向け販売サイトに比べるとかなりいい数字)
翻訳作業&写植作業は全てFAKKU!にお任せなので、自分で英訳版を製作する手間やお金がかからず、非常に楽です。また、日本語のうまい翻訳スタッフさんも居るので、日本語でコミュニケーションをとることもできます。
FAKKU!は既に大量(多分1万人規模)のクレジットカードを登録した月払い購読者(後述)が居るので、同人誌の販売についても、それなりの売り上げが望めます。

FAKKU!は、2006年頃にJacob氏によって開設されたScanlationサイト(勝手翻訳&違法配信サイト)でしたが、快楽天やX-EROSを出版しているワニマガジン社(以下、ワニ社)からTake Down要求(違法配信著作物の削除要求)を受けた際に交渉を行い、2014年頃からワニ社の正規代理店になりました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Fakku

FAKKU!は、この記事の執筆時点(2016/7)においては、
1.日本国内での発売と同時に、快楽天及びX-EROSをネット配信(月額12.95USD)
2.ワニ社の単行本(少女マテリアルなどの著名作品)の電子販売&印刷版の販売(電子版10USD/印刷版20USD)
を行うとともに、AnimeExpoなどのイベントに出展しています。

FAKKU!は、ワニ社との契約の際、
1.海外での販売が、日本国内での既存のビジネスに悪影響を与えないこと
2.ポルノについての規制が国毎に異なること(より具体的には、日本のわいせつ物規制に関する判例法や、警察による取り締まりや、業界の自主規制が世界でも特殊なこと)
などが考慮されて、翻訳コンテンツを日本国内へ配信する権利を許諾されていないようです。同人誌の販売契約についても、このワニ社との契約に近いものとなっています。

FAKKU!は、同人誌に関して、今年2016年の1月までに、全ての違法配信コンテンツを削除して(なお、それまでは弊サークルの漫画も違法配信されていました)、同人誌の正規配信を行おうとしているようです。
現時点において、FAKKU!は、ワニ社で執筆している作家さんのサークルと、英訳版の配信について積極的なサークルに対して、主に声かけをしている模様です。また、サイト内掲示板を見ると、購読者からは特殊性癖系(主にふたなり、モン娘)の要望が強いようです。

FAKKU!での配信の条件ですが、主として、
1.卸値率は70%
2.翻訳作業はFAKKU!にお任せ
3.FAKKU!の翻訳した英訳版はFAKKU!が独占的に利用(原則的に、作家側による頒布は不可)
4.ただし、一定期間の経過後、上述した月額12.95$を支払っている購読者は、低解像度版を無料で読める(高解像度版の入手は要購入)
の4点です。条件4については、現状では、やむなしかなと言った感じです。

(7/7追記:発売後約2週間で342部売れたようです)
(2017/2/17追記:発売後6カ月で660部売れました)